四つの宇宙戦争 人類の恐怖について




---最新更新日:2007.12.22---

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宇宙戦争は人類の恐怖心を描いた傑作であるといえる。私たちはこの宇宙戦争を中心にそのことについて考察してみたいと思う。それぞれの作品はすべて結末まで説明してあるが、その箇所は文の色を変更している。最後のまとめ以外は、高校時代にブログにかいた記事をそのまま載せている。


1、原作


・考察


H.G.ウェルズの描く宇宙戦争は、まだアメリカが独立して間もない時の頃、イギリス・アメリカで同時発表し、今まで宇宙のことなんか遠い未来のおはなしだと考えていた人々は、この『宇宙戦争』によって、宇宙を身近に感じるようになった。とても飛行機発明前に書かれたとは思われないくらい、毒ガス兵器といい、歩行ロボットとい、火星人の容態といい、ましてやレーザービーム兵器など、未だに発明されていない。今、100年後200年後の未来を予想しようとしても、心に浮かぶのは地球や人類の滅亡、機械の文明…そんなのばかりだろう。


・あらすじ


19世紀イギリス、郊外に隕石おち、そこから火星人操る、歩行型殺戮マシーンがでてくる。脳と手のみ発達し、あとは退化した火星人はタコに似ていた。火星人操るマシーンは次々と、村や町を侵略し、イギリス軍などひとたまりもなかった。主人公は、攻撃から逃げるうち妻と別れて、途中で牧師補と出会い、共に段々気が狂ってきてしまう。始めは笑い話にしていた民衆も、次第に我を忘れ、理性を忘れ争うように逃げまとうのだ。主人公の弟もロンドンから脱出、海外へ逃げるため船にのるが、その間すれちがう人々をみても、もう階級など関係なく、うすぐろい人間の素の姿であった。


火星人は星を占領するため、赤い植物をうえつけ、食糧は下等生物『人間』の血をそのまま注入していき、完全に自分達の植民星と思ったそのとき!!


火星人は、地球最高生物、人間の兵器による攻撃を軽くはじいたのに、地球の最小最弱生物である、バクテリアに侵食され、ついに倒される。そのかん、主人公は牧師補と一緒に避難生活をしていたが、食糧をめぐってお互い争い、ついに牧師補も火星人の餌食となる。一人ぼっちになった主人公は絶体絶命の危機になるが…。



2、ラジオ放送


・考察


第二次世界大戦前夜のアメリカ、唯一の世界との窓、ラジオの前にかじりついている民衆、そこに…火星人侵略のニュースが!?ウェルズの宇宙戦争を、ラジオドラマにし、内容もリアリティーの強い臨時ニュース風、その危機迫る声にアメリカ国民は、本当に侵略されていると思い、中にはナチスの攻撃だと思って、次々と逃げていってしまった。後にこのことはTVで特集(後記:TVムービー作品『アメリカを震撼させた夜』)され、話題となった。当時生きていた原作者のウェルズも呆れていたという。


・あらすじ


心地よいクラシックの生演奏の放送中、突如、隕石落下の臨時ニュースが。再び演奏に戻ったが、すぐにニュースになる…、隕石が熱をおび、そして隕石から“蓋”がおちた…そこからいきなり、強烈な熱光線が発射、中継は急にとぎれる。大砲攻撃も毒ガス兵器でやられ、飛行機も熱光線をあび、墜落してしまう…


・背景


1938年10月30日、ハロウィンの前日、アメリカのCBSネットワークにおけるマーキュリー劇場というラジオ番組で、日曜日の午後8時に放送は始まった。この番組は、後に映画『市民ケーン』を手がけたことで有名なオーソン・ウェルズがプロデュース。脚本は、後に映画になった『カサブランカ』の作者、ハワード・コックによるものだが、彼によるとウェルズの独裁的指示に脚本執筆はまるで悪夢のようだったらしい。私は高校時代にこの放送のMP3にてダウンロードし、実際に視聴した。クラシック番組に割り込む襲撃速報、とだえるアナウンサーの声など、英語であってもとても生生しかった。


この番組はラジオドラマであるにも関わらず、実際に奇襲されたようなリアルさでニュース速報のように放送された。当時アメリカはナチスドイツに震えていて、そのヒステリズムがむきだしになったように、視聴者は放送を聴いたとたん、パニックに陥り実際に逃走しはじめたという。その背景は、太平洋戦争直前の緊迫な風潮、そしてリアルタイムなメディアがラジオ放送しか当時はなかったことが原因であるともいえる。なお、この事件はラジオメディアに反感をもっていた新聞によるでっちあげであるという説もある。


いまでも
http://www.jhepple.com/Freestuff/streaming_media.htm#Radio_Dramas
からWMAファイルがダウンロードできる。


・とくに印象的なシーン

14:30 蓋が開き民衆が騒ぐ。
16:50 機械音がなりはじめ、17:10に男が叫び始め、途中で放送が切れる。
30:00 爆撃を行っていた陸兵士がガスでむせ始め、放送が途絶える。
32:00 戦闘機にて目標地点に近づいていたが、突然機械音が鳴り始め、墜落する音が鳴り響く中、32:30に音が途絶える。
37:00 街頭実況をしていた男が倒れ、放送が途絶える。
37:30 不可思議な男の呟き
54:30 オーソン・ウェルズによるしめ。


3、ジョージ・パルによる、映画「宇宙戦争」


・背景


時はちょうど朝鮮戦争終結、そしてソ連とアメリカの冷戦にさしかかり、世界が緊迫している頃。宇宙戦争は内容が内容なために、常に時代が緊迫している時に公開された。


・あらすじ


アメリカ郊外に隕石が落下。学者である主人公は呼び出され、そこで牧師の姪に出会い、ともにダンスする仲になったが、その時停電が。実は隕石は火星人のロケットで、その中から火星人が攻撃を始めたのだ。あっと言うまもなく、火星人による戦火は世界中に広がる。主人公の恋人の叔父(牧師)も殺され、アメリカ軍も出動したがまるで歯がたたず、いやおうもなく、主人公と牧師の姪は避難する。ある家に駆け込んだが、最悪なことに、そこに火星人のロケットが。主人公は火星人の機械の目を奪い、自分の大学へいき、調査する。


その頃、軍は核による攻撃を決め、決行。だが核攻撃も無意味であった。地球人類がみな「難民」となった。そうして主人公ら大学のメンバーも避難をしようと車を走らせたが、そこに暴徒が押し寄せ、大事な火星人の研究資料もめちゃめちゃになり、車も奪われる。彼女と離ればなれになった主人公は、よく彼女が行く教会へはいる。彼女とめぐりあうとき、いよいよ火星人の戦闘機が攻めてくる…。



4、スピルバーグによる、映画「宇宙戦争」


・感想


エンドスクロールが終わったあとなど、ある種の衝撃のあまり、場内にいる観客すべてが、息をも止めているかのごとく、完璧な静寂になった。

インデペンデンス・デイとは正反対の見方で描いた今作は、1953年版のオマージュが非常に強いと感じた。そっくりなのが、
宇宙人操るトライポッドの機械触手を、主人公レイが斧で叩き壊すシーン。

スピルバーグはどちらかと言うと、次々と新しいスタイルの映画を作るが、この宇宙戦争は、何度も何度もリメイクされた作品である。だからスピルバーグはそれなりにこれまでの『宇宙戦争』系の作品を土台にしたのだろう。

今作は主に三つの部品があったと思う。すなわち、『原作 宇宙戦争』『1953年版 宇宙戦争』『サイン』

一番の見所が、これらの作品をミックスしてつくった、
レイとレイチェルがおじさんの地下室に逃れ、そこで宇宙人に追われる所だと思う。

逆に、今作の大失敗は、最重要事項であった、宇宙人の姿だろう。もし、この作品の宇宙人が見えなかったら良かったのにと、とても残念。『サイン』など、家の中からでしか宇宙人の侵略が分からなく、その狭い目がとても怖いはずだったのに、最後にでてくる上下運動をしている、あの宇宙人はなんなのだろうか…。宇宙戦争に話を戻すが、スピルバーグがあれほど脅した宇宙人は、友人曰く、「
未知との遭遇のちっこい宇宙人の方が怖かったなぁ」。

スピルバーグは1953年版のリメイクではなく、新しい宇宙戦争だ、のような事を言っていたような気がするが、2005年版宇宙戦争は、1953年版のリメイクだと断言したい。

これから宇宙戦争を観に行くつもりの人は、レンタル屋でまず『1953年版宇宙戦争』を借りて、また原作も読み、それぞれ観比べても面白いと思う。

この宇宙戦争は、正直『シンドラーのリスト』についで、自分の中で恐ろしい思いをした。見ている途中で「なんでこんな怖い思いをするために\1300もはらったんだろ」なんて思うほど。第一自分はホラーアレルギーだから、あまりこういう手の映画は為れていないだけなのだろうか。人間の描きかたも、さすがスピルバーグ!ルーカスにない所のスピルバーグの力量だろう。

主人公もラストに近付くにつれ、残された娘のレイチェル(主人公レイと名前が重なっている!)を守る事しか頭にない狂気になっているのが分かる。トムのこんな演技は見たことがなく、日本人俳優のように微妙な心境的な演技ができている。しかしもっともうまい役者はダコダだろう。前半の一般的なわがまま少女、後半の絶望的な恐怖の言葉もでないあの演技、天才的だと思った。


・後述


2001.9.11の影響が色濃くでた作品になっていて、背景説明ばかりに固着せず、主人公を淡々と追った、ハンディカムによる長回しをつかう、視聴する側にとって極めてリアルな作品になっている。なお、「トゥモロー・ワールド」も、スピルバーグが次に手がけた「ミュンヘン」も、そのことがさらに顕著となっている。その点が、同じ「宇宙戦争」のリメイクである「インデペンデンス・デイ」とは真逆である。こちらは80年代から続く伝統的なハリウッドアクションSF大作だが、その数年後にはもう「ID4」では通用しなくなった。


5、まとめ

それぞれの宇宙戦争関連作はすべて、現実の「戦争」と密接に関わっている。原作は第一次世界大戦より前だがこの戦争を予言しているようであるし(原作1898年、戦争1914年開戦)、ラジオドラマは前述のように第二次世界大戦の迫る影に怯える米国民の狂乱を産み出し、1953年のジョージ・パルの映画版も冷戦と同時期であり、2005年のスピルバーグの映画版もイラク戦争の混乱時に撮影をおこなっていたはずだ。人類の戦争による恐怖は、このような同じSF作品によって刻銘に記録されることになったのは、とても興味深かった。





日露戦争直前、馬車や機関車の、ロンドンの時代・・・


1898年
:原作「宇宙戦争」SFの父、H・G・ウェルズによって書かれ、英米同時発表される。





第二次世界大戦直前、アメリカの時代・・・


1938年:ラジオドラマ「宇宙戦争」をCBS放送局がニュース番組風に放送。

アメリカ国民の中には、実際に襲われていると勘違いし、避難するほど、リアリティーの高い作品。





サンフランシスコ平和条約直後、古き良きハリウッドの時代・・・


1953年:映画「宇宙戦争」公開。ドキュメンタリータッチで淡々と人類が襲われるさまを描かれる。

火星人の乗り物が、UFOに変更。以後多くのSFが真似する。



The Complete War of the Worlds HP WarOfTheWorld HP


 

同時多発テロ・イラク戦争直後、ニューヨークの時代・・・

2005年スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演「宇宙戦争」が、6/29に全世界同日公開!

原作から一世紀が過ぎ、世界に暗雲がたちこめる中、「家族愛」をテーマに全世界が襲われるさまを描かれる。


番外編


「H.G. Wells' The War of the Worlds(H.G.ウェルズの宇宙戦争)」

スピルバーグが「宇宙戦争」を制作する前、原作に忠実な「宇宙戦争」がつくられつつあった。他の宇宙戦争も紹介。

ジェフ・ウェインのリミックス宇宙戦争などなど。












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